売上の増減で変わる「消費税の計算方法」

法人や個人事業主の方の、消費税の基本的な計算方法は、
売上などで「預かった消費税」から、仕入や経費などで「支払った消費税」を差し引いた、
残りの金額を納付する、『本則』と呼ばれる仕組みです。
ただ、売上の金額によっては、上記の『本則』とは別の方法を選ぶことができたり、
そもそも、消費税の申告・納付が不要なケースもあります。
今回は、売上金額が異なる3つのケースを例に、それぞれ、消費税の計算方法にはどのような選択肢があるのか、お話ししてみます。
《補足》消費税の計算方法に影響する「売上の金額」について
・消費税の対象となる収入であり、車などの固定資産を売却した金額も「売上の金額」に含んで判断します。
・基本的に、前々期の「売上の金額」をもとに判断します。
売上の金額が5000万円を超えるケース
前々期の売上の金額が5000万円を超える場合は、選択肢は1つしかありません。
冒頭でお伝えした『本則』という方法で計算をします。
『本則』の場合は、2023年10月から始まったインボイス制度により、
支払い先がインボイス登録しているかどうか、請求書or領収書にて確認が必要です。
支払い先がインボイス登録をしているかどうかによる影響は、以前、ブログでも書きましたが、
ブログ:インボイス制度が始まる前に、確認しておいた方が良い「買い手(支払い)側の対応」
今後のことで言うと、2026年10月1日以降はまた、控除割合が変わります。
インボイス制度開始後は、支払先がインボイス登録をしていなくても、
消費税分の80%は、消費税の納税額から差し引くことができましたが、
2026年10月1日以降は50%と、差し引ける消費税の金額がさらに減る、という影響があります。
【例】毎月110,000円(税込)を、インボイス登録をしていないA社に支払っている。
◎2023/10/1~2026/9/30 ・・・8,000円を差し引く計算
◎2026/10/1~2029/9/30 ・・・ 5,000円を差し引く計算
◎2029/10/1~ ・・・ 差し引く金額なし
つまり、差し引く消費税が減る=自社の消費税納付額が増える
という影響があります。
インボイス登録をしていない支払先がいらっしゃる場合は、
どれくらい納税額への影響があるか、取引の状況等にもよりますが、
取引金額を検討・相談頂くのが良いのでは、と思います。
売上の金額が1000万円~5000万円のケース
前々期の売上の金額が1000万円~5000万円の場合は、選択肢は2つです。
- 本則
- 簡易(事前の届出が必要+最低2年は継続適用)
『本則』は冒頭でもお伝えした計算方法ですが、
『簡易』は、事前の届出(利用する年度が始まる前に提出)により使える方法です。
『簡易』の方法をざっくり説明すると、
売上に上乗せした消費税に、売上の種類ごとに決められた割合をかける、という計算です。
例えば、小売は20%という割合が決められていますので、
年間の売上が3000万円(税抜)で、消費税率10%の商品を販売していたとすると、
預かった消費税は、3000万円×10%=300万円で、
そのうちの20%の60万円を納付、という計算になります。
小売以外ですと、
卸売業・・・・・・・10%
建設業・製造業・・・30%
飲食店業・・・・・・・40%
サービス業・・・・・50%
不動産業・・・・・・60%
というのが、おおまかな分け方です。
*売上の種類により、細かく分ける必要があるケースもあります。
例えば飲食店業であっても、テイクアウトの売上については、
調理方法や販売先により、10%・20%・30%に分けて処理します。
まとめると、何も届出を出さないと『本則』で納税額を計算、
事業年度が始まる前に『簡易』の届出を出している場合は、
上記でお伝えした、売上の種類によって納税額を計算、という流れになります。
『本則』or『簡易』を選ぶかは、それぞれの法人or個人事業主の方の状況によっても異なるため、
どちらを選ぶか迷われた場合は、専門家の税理士に個別にご相談頂くのが良いでしょう。
(『本則』利用年度に1000万円以上の資産を購入している場合は、
購入年度含めて3年間は、『簡易』を選べない、、という制限もあります。)
参考までに、『本則』『簡易』の比較表を作成しましたので、↓をご覧ください。

売上の金額が1000万円以下のケース
前々期の売上の金額が1000万円以下の場合は、選択肢は4つです。
- 免税
- 本則
- 簡易
- 2割特例
まず、インボイス登録をしない場合は基本的に『免税』という扱いになり、
消費税の申告・納付は不要です。
ただ、下記のケースはインボイス登録をしていなくても、
消費税の申告・納付が必要となります。
- 資本金が1000万円以上
- 前期の上半期の売上金額or給与等支払額が1000万円超
- 「消費税課税事業者選択届出」を提出している場合
インボイス登録をしている等で、消費税の申告・納付が必要な場合は、
『本則』or『簡易』での計算をします。
これら2つの計算方法以外に、期間限定ではありますが、
『2割特例』という計算を選ぶことができます。
『2割特例』とは、ざっくり言うと、
『簡易』の計算方法で、小売り(20%)と同じ計算です。
(20%なので『2割特例』という呼び名かと。)
ですので例えば、
年間の売上が800万円(税抜)で、消費税率10%の商品を販売していたとすると、
預かった消費税は、800万円×10%=80万円で、
そのうちの20%の16万円を納付、という計算になります。
2割特例の特徴は、『簡易』と違って事前の届出が不要なので、
通常の計算方法(本則or簡易)で計算した納付額と、
2割特例で計算した納付額と比較して、少ない方を選べる、という制度です。
利用できる期間は、
- 前々期の売上が1000万円以下など、インボイス登録をしなければ免税扱いの期間
- 2026年9月30日が含まれる年度まで
例)3月決算法人ですと、2027年3月期まで
に限定されていますので、利用される際はご確認ください。
本日のブログ写真
先日、「消費税・インボイス制度について」という研修会の講師をさせて頂きました。
インボイス制度自体は、1年半ほど前に始まった制度ですが、制度開始から3年が経つ来年の10月以降に、
一部、経過措置が終了するものがあります。
そちらの内容を含めて、お話しをさせて頂きました。
消費税は、インボイス制度が始まってからよりいっそう、細かいポイントが増えている印象です。
ご自身に影響がある“会計処理” や “納税額” への影響については、理解をしておいて頂けたらと思います。
この記事を書いた人

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長野市在住の30代女性税理士
専門用語をできるだけ使わず分かりやすい説明になるよう、心がけています。
freee・マネーフォワードといったクラウド会計を活用し、タイムリーな数字を見られるようサポート致します。
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