最終更新日:2022年1月28日

 上場株式等を譲渡して損失が出てしまった場合や、居住用の不動産(自宅)を譲渡して損失が出ていた場合は、確定申告の必要が無かったとしても、確定申告を行っていた方が良い場合があります。それは、一定の要件を満たすと、これらの損失金額を、他の所得や翌年以降の所得から差し引くことが出来る場合があるためです。どういった要件を満たせば、確定申告により損益通算・損失の繰越控除が可能なのか、さらに具体的な計算方法も併せて、上場株式等の譲渡の場合と、居住用の不動産の譲渡の場合のそれぞれについて解説致します。

上場株式等の譲渡の場合

〈要件〉
上場株式等の譲渡であること
⇒上場株式等とは、金融商品取引所に上場されている株式等のことを言い、具体的には、国内及び外国上場株式、国内及び国外上場ETF、REIT、公募株式投資信託、公募公社債投資信託など
⇒その他、いわゆるエンジェル税制の対象となる、特定中小会社に該当することについて都道府県知事の確認書等の交付を受けている株式会社(注1)も対象
・上場株式等の譲渡損失があった年に上場株式等の配当所得も生じている場合で、その配当所得と譲渡損失を損益通算をしたい場合は、申告分離課税を適用して申告を行うこと
⇒上場株式等の配当所得は、総合課税or申告分離課税or申告不要(年1回配当であれば10万円以下の場合)のいずれかを選択できますが、上場株式等の譲渡損失と損益通算が出来るのは、申告分離課税を選択した場合のみです。
・この規定の適用を受けるためには、該当する申告書付表及び計算明細書を添付すること
⇒損益通算の規定を適用する場合には、確定申告書にこの規定を適用する旨の記載も必要です。
⇒上場株式等の譲渡が無かった年も、譲渡損失を翌年へ繰り越すための申告は必要となります。
NISA口座では、譲渡所得と配当所得はそもそも所得税の対象とされていないため、下記の損益通算や繰越控除の適用はできません。

〈計算方法〉
1.同じ年に他の上場株式では譲渡所得があった場合は、他の上場株式等の譲渡所得から差し引く。
2.1の計算後、残った損失金額があった場合で、同じ年に上場株式等の配当所得がある場合は、配当所得から控除する。
3.2の計算後も残った損失金額がある場合は、翌年以後3年間、上場株式等の譲渡所得と上場株式等の配当所得から控除することが出来る。
・(注1)特定中小会社の場合は、申告分離課税を選択した配当所得との損益通算及び繰越控除は不可、かつ、翌年以降の損失の繰越控除では、一般株式等に係る譲渡所得及び上場株式等に係る譲渡所得から控除できる。

《参考》国税庁HP:上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度
    国税庁HP:上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
    国税庁HP:配当金を受け取ったとき(配当所得)
    国税庁HP:株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い

居住用の不動産の譲渡の場合

〈主な要件〉
令和3年12月31日までに売却して、新たにマイホーム(新居宅)を購入した場合に、旧居宅の譲渡による損失(譲渡損失)が生じたとき
・自分が住んでいるマイホームを譲渡すること。なお、以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。
譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超える資産(旧居宅)で日本国内にあるものの譲渡であること
・譲渡の年の前年の1月1日から売却の年の翌年12月31日までの間に日本国内にある資産(新居宅)で家屋の床面積が50平方メートル以上であるものを取得すること
・買換資産(新居宅)を取得した年の翌年12月31日までの間に居住の用に供することまたは供する見込みであること
・買換資産(新居宅)を取得した年の12月31日において買換資産について償還期間10年以上の住宅ローンを有すること
適用を受ける年の合計所得が3000万円以下であること
・旧居宅を売却した年の前年および前々年に次の特例を適用している場合は適用できません。
⇒居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除、特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例、特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例
※ この特例と(特定増改築等)住宅借入金等特別控除制度は併用できます。住宅借入金等特別控除制度の詳細は、別コラム「住宅ローン控除or3000万特別控除」をご参考ください。
・この規定の適用を受けるためには、確定申告書に一定の書類の添付、繰越控除の場合は住宅借入金等の残高証明書の添付も必要です。

〈計算方法〉
1.同じ年に生じている他の所得(給与所得や事業所得など)から、居住用財産の譲渡損失の金額を差し引く。
2.1の計算後も残った損失金額がある場合は、翌年以後3年間繰り越して、プラスの所得から控除することが出来る。

《参考》国税庁:マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)

おわりに

 上場株式等の譲渡については、証券会社の同一口座内(特定口座で源泉徴収ありを選択していることを前提)であれば、証券会社側で配当所得と譲渡損失を損益通算して口座で税金の精算をしてくれています。ただ、A証券会社の口座で譲渡損失、B証券会社の口座ではプラスの譲渡所得or配当所得といった場合は、確定申告を行うことでB証券会社の口座で徴収されている所得税の還付を受けられる可能性が高いです。また、譲渡損失の金額が大きい場合は、その譲渡損失の確定申告(繰越控除の明細書等を添付のうえ)をしておくと、翌年以後3年間にプラスの譲渡所得が出た場合に、プラス分に対して徴収されている所得税の還付を確定申告により受けられることとなります。
 個別のご相談については、スポット税務相談申告書作成サポートにて対応させて頂きますので、是非ご利用ください。

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