『簡単にできます!』という言葉の罠

簡単に登れると思った地附山(ぢづきやま)

 1月~3月中旬にかけて、税理士会からの依頼で、個人の確定申告に関する仕事が何件かありました。住宅ローン控除や、当番制で行う終日対応のコールセンターや、青色申告や不動産に関する税金の講師をさせて頂いたり、ご依頼頂いている個人事業主のお客様の対応も勿論ですが、所得税にがっつり関わった時期でした。

 そんな中で感じた事が、「簡単に出来ます!」という言葉を安易に信用するのは良くないのではないか、ということです。近年では、スマホで確定申告が簡単に出来るというCMが流れていたり、確定申告に対して「簡単に出来る」というイメージをつけようという動きが色々なところでされている事も1つの原因と思いますが、確定申告自体を全くされた事が無い方や、国税庁e-Tax確定申告書等作成コーナーを初めて使われる方は特に、「簡単にできる」というイメージが先行し過ぎていると思いました。それゆえ、実際に申告書を作成する時に想像していたよりかなり大変、、、という感想を持ってしまう傾向があるようです。

住宅ローン控除の申告は「簡単!?」

 住宅ローンを組む、という手続きは、皆さん一生に1回程度かと思います。なお、「住宅ローン控除」は2年目以降は、会社勤めの方は年末調整の際に資料を提出すれば、会社側で調整して計算してくれる、という仕組みですので、初年度のみ確定申告を行えば良い、という仕組みです。

 ですので、今まで給与収入のみの方は、確定申告自体を初めて行う方も多く、私が今回、税理士会からの依頼で対応させて頂いてお客様と話すなかで、CMの宣伝などから今は「確定申告は簡単に出来る!」と思われている方が多いようでした。確かに、スマホとマイナンバーカードを使って申告をする仕組みが整備されたので、以前よりはしやすくはなっていると思いますが、そういった「簡単」にやるのは、単純な仕組みの場合であって、例えば、共有資産で取得していたり、贈与や補助金を受けていたり、という場合には、誤って入力をしてしまう可能性もあり、また、そもそも言葉の意味を勘違いされてしまっている方もいらっしゃいました。

 少し前に、「自分自身でも出来る確定申告を税理士に頼むのはなぜか。」という話しをお客様とした事があり、その時に出た結論が、「申告を終わらせる」という目的だけであれば自分自身ですることも出来るが、「正しく申告をする」ということであれば専門家に依頼した方が良い、という事でした。申告書を提出するorスマホで電子申告をする、という目的だけれあればご自身で完結する事は出来ますが、その内容が正しい計算になっているか、という点は、ご自身だけで完璧に仕上げるのは、医療費控除や寄付金控除といった単純な内容のものでない限り、なかなか難しいのではと思いました。

確定申告書等作成コーナー(e-Tax)やクラウド申告は「簡単!?」

 2月上旬に、こちらも税理士会からの依頼で、確定申告に関するコールセンターの終日対応のお仕事がありました。私の方で対応する内容は、税務に関する内容のみ対応するということで、確定申告書等作成コーナー(e-Tax)の操作方法は別の問い合わせ先で対応する、という仕組みでした。

 税務に関する内容の対応、ということではあったのですが、「税務の事をわかっている」+「確定申告書等作成コーナー(e-Tax)の操作方法も知っている」という状態でないと対応出来ないような質問もあり、そういった方の対応も数件ありました。

 お一人目は、給与所得と雑所得の収入があって、という内容だったと思うのですが(何十件も丸一日対応したので記憶が曖昧です(^^;))、最初から最後まで納税者の方の状況を聞きつつ、入力箇所をお伝えして、ということで30分以上の電話対応になってしまいました。CMではe-Taxでの確定申告は「簡単に出来る」を強調していたと思いますが、また、電話をかけられた方はパソコンにはそれなりに慣れている方のようでしたが、それでも手取り足取りの対応でないと、なかなか進められないような印象でした。

 もう一人の方はかなり高齢な方で(お電話の最後の方で、80代とおっしゃっていました。)、ご自身で確定申告書等作成コーナーを使って毎年申告をされている方でした。

 その方いわく、「説明の文章の意味がよく分からない箇所が多いし、エラーも出て来て使いにくい」という事をおっしゃっていました。そのうちの1つが帳簿の方法について、「優良な電子帳簿」or「会計システムを使っている」or「簡易な帳簿」など、選択肢がいくつかあって、それによって青色の65万控除か10万控除かの判断基準になる、という仕組みだったのですが、その「優良な電子帳簿」についての文章がかなり長い文章のため、『意味が分からない、これを読んで意味がすぐ分かる納税者なんていないだろう』という、ちょっとしたクレームでした。

 確かに、確定申告書等作成コーナーは、意味が分からないとどれを選択すれば良いのか分からない箇所もあり、専門用語を使って説明がされている箇所も複数あるので(前回ブログ「調べればネットに出ていることであっても、税理士が対応する意味。」にも同じような内容を記載しましたが。)、一納税者が全て理解して正しく申告をする事はなかなか難しい事だと思いました。ただ、そうは言っても、全国民が義務とされている“納税”について、専門家しか分からないような表現を確定申告書等作成システムに使ってしまうと、多くの人が申告をスムーズに行うための「確定申告システム」であるはずなのに、根本的な目的から外れてしまう事になる、と、そのお電話の方の話しを聞きながら思いました。

「確定申告」は、意味が分かった上での申告でないと意味がない。

 今回の確定申告の対応で、あまりに「簡単」を強調している世の中の流れにより、かえって大変な思いを感じている方も多いという気づきがありました。個人の確定申告に限らずですが、クラウド会計の操作も「簡単」をかなり強調していて(確かに、かなり便利にはなっています。)、それに完全に頼って意味をよく分かっていない状態で処理をしてしまうと、間違った処理のまま申告まで進んでしまった、ということも十分あり得る話しです。

 世の中、「便利」や「簡単」な事が年々増えてきてはいますが、税理士という税金の専門家として、「便利」な事は取り入れつつ、やれる事はまだまだ沢山あるなぁと感じた確定申告時期でした。

本日のブログ写真

 先日、長野市内にある地附山に登りました。少し前にテレビで映っていて、 “簡単” に登れそうなイメージがあったので、急に思い立って出かける事にしました。実際登ってみると、想像していたよりしっかりとした山道で、登りの傾斜も(私にとっては)かなりある道もそれなりにあり、2月でありながら気づけば少し汗をかいていました。

 写真は頂上より手前にあるビューポイントで、この場所までで断念してしまったので(^^;)、次回はしっかりと準備をして頂上まで登りたいと思います。

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