最終更新日:2022年1月28日

 売上先が倒産してしまったり、未入金の連絡をしてもなかなか入金をして来ない等、売上は計上したものの売掛金の入金の目処が立たない場合には、一定の要件を満たすと、貸倒引当金繰入や貸倒損失によって税金計算上、費用計上することが出来ます。入金は見込めなくなってしまったが、売上は過去に計上したため、納税額には反映されていたという場合は、貸倒引当金繰入や貸倒損失により税金上の費用計上が出来るかどうか、検討された方が良いでしょう。 なお、これらの費用の要件は、単純に倒産したから貸倒損失の計上が可能という規定では無いので、きちんと確認することが大切です。

貸倒引当金を計上することができる「中小法人等」とは?

 貸倒引当金の計上は、「中小法人等」に該当する場合のみ、計上が可能です。この「中小法人等」は、次の【中小法人等の定義】①~③のいずれかの内国法人が該当します。条文を読むとかなり複雑に感じられるかと思いますが、一般的な法人の場合で確認するポイントは2つで、該当事業年度の終了時点(2022年3月期に貸倒引当金を計上したい場合は2022年3月31日時点)で、資本金の額が1億円以下である場合連結子法人の場合は、連結親法人の資本金の額が1億円以下である場合)で、かつ資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人との間に完全支配関係がない普通法人であることをご確認ください。

【中小法人等の定義】
当該事業年度終了の時において次に掲げる法人に該当する内国法人(当該内国法人が連結子法人である場合には、当該事業年度終了の時において当該内国法人に係る連結親法人が次に掲げる法人に該当する場合における当該内国法人に限る。)
  普通法人(投資法人及び特定目的会社を除く。)のうち、資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下であるもの第六十六条第六項第二号又は第三号(各事業年度の所得に対する法人税の税率)に掲げる法人に該当するものを除く。)又は資本若しくは出資を有しないもの
 ロ 公益法人等又は協同組合等
ハ 人格のない社団等

② 次に掲げる内国法人
 イ 銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項(定義等)に規定する銀行
ロ 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第二項(定義)に規定する保険会社
ハ イ又はロに掲げるものに準ずるものとして政令で定める内国法人
③ 第六十四条の二第一項(リース取引に係る所得の金額の計算)の規定により売買があつたものとされる同項に規定するリース資産の対価の額に係る金銭債権を有する内国法人その他の金融に関する取引に係る金銭債権を有する内国法人として政令で定める内国法人(②に掲げる内国法人を除く。)

《参考》e-Gov法令検索:法人税法第52条1項1号~3号

貸倒引当金の計上(貸倒れの兆候あり) ※中小法人等のみ

〈要件〉
当該事業年度終了の時点で有する金銭債権(売掛金等)に係る債務者につき、下記1~3のいずれかに該当する場合(税法用語で「個別評価金銭債権」と言います。)で、計上金額につき損金経理〈※補足〉を行うこと。
1.更生手続or再生手続or破産手続or特別清算の、開始の申し立てが生じた場合。
  また、手形交換所の取引停止処分がされている場合。
  (特例として、当期末までに債務者の振り出した手形が不渡りとなり、かつ、確定申告書の提出期限までに、手形交換所の取引停止処分を受けることも含む。)
2.債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由により、当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められること(当該金銭債権につき1.に掲げる事実が生じている場合を除く。)
3. 更生計画or再生計画or特別清算に係る協定の、認可の決定(これらに準ずる ものとして財務省令で定める事由 )に基づき弁済を猶予され、又は賦払により弁済されること。

〈計上金額〉
上記〈要件〉の1~3に応じて、計上金額は下記の通り異なります。
1.当該金銭債権の額(当該金銭債権の額のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の50%に相当する金額
2.当該一部の金額に相当する金額
3.当該金銭債権の額のうち当該事由が生じた日の属する事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額以外の金額(担保権の実行その他によりその取立て又は弁済の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)

《参考》国税庁HP:個別評価金銭債権に係る貸倒引当金
     e-Gov法令検索:法人税法施行令第96条1項

貸倒引当金の計上(貸倒れの兆候無し) ※中小法人等のみ

〈要件〉
貸倒引当金の計算式に含まれる金銭債権は、次のとおりで、 計上金額につき損金経理〈※補足〉を行うことが要件す。なお、上記の個別評価金銭債権を除きます。 (税法用語で「一括評価金銭債権」と言います。)
(1) 売掛金、貸付金
(2) 未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等又は貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
(3) 他人のために立替払をした場合の立替金(将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額を除く)
(4) 未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
(5) 保証債務を履行した場合の求償権
(6) 売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形
(7) 売掛金、貸付金などの債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの
(8) 売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの

〈計上金額〉
下記のいずれかの方法により計算を行います。
1.貸倒実績率を用いた方法
 【計算式】繰入限度額 = 期末一括評価金銭債権の帳簿価額 × 貸倒実績率
 貸倒引当金の設定対象事業年度末の一括評価金銭債権の帳簿価額に、過去3年間の貸倒損失発生額に基づく実績繰入率を乗じて計算します。計算方法の詳細は、 国税庁HP「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金設定」をご参考ください。

2.法定繰入率に基づく計算(中小法人又は公益法人等若しくは協同組合等向けの特例)
 【計算式】繰入限度額 =( 期末一括評価金銭債権の帳簿価額 ー 実質的に債権とみられない金額)× 法定繰入率
  中小法人等のうち特例対象法人の場合は、「1.貸倒実績率を用いた方法」に代えて、こちらの計算式を用いることが認められています。法定繰入率は業種により異なる率で計算することとなっていますが、一般的に、過去3事業年度において貸倒損失の金額や個別評価金銭債権による貸倒引当金の計上額が僅少である場合は、こちらの法定繰入率に基づく計算の方がより多く費用計上できる可能性が高いです。 特例対象法人や計算方法の詳細は、 国税庁HP「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金設定」をご参考ください。

《参考》国税庁HP:一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲
       国税庁HP:一括評価金銭債権に係る貸倒引当金設定

貸倒損失の計上

〈要件:いずれかに該当する場合は計上可能
1.次の(1)から(3)のような事実に基づいて金銭債権が切り捨てられた場合
 (1)会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の決定
(2)法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議
(3)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合
 
2.金銭債権の全額が回収不能となった場合
  債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合
  ⇒回収不能が明らかなことを証明する、債務者の資産状況・支払能力等に関する書面の収集が必要です。

3.次の(1),(2)のように、一定期間取引停止後弁済がない場合等
  (1)継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき
ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます。
    なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。
(2)同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
    

〈計上金額〉
1.(1)規定により切り捨てられた金額
(2)合理的な基準によって切り捨てられた金額
(3)債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額
2.明らかになった事業年度において貸倒れとして全額を損金経理することが可能。
  担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません
  なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。
3.売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます。

※補足
損金経理とは、費用として仕訳計上することを言います。つまり、貸倒損失2.3.については損金経理をすることが要件のため、「貸倒損失/売掛金 ○○○円」というように、費用の仕訳を計上する必要があり、貸倒損失1.については、費用の仕訳計上をしていなくても、法人税の申告書上で、税金計算上の費用を計上することが可能です。(実際は、1.の場合でも、 「貸倒損失/売掛金 ○○○円」 の仕訳を計上することがほとんどですが。)
なお、貸倒引当金の費用計上については、損金経理は必須要件のため、「貸倒引当金繰入/貸倒引当金 ○○○円」というような仕訳を計上することが必要です。

《参考》国税庁HP:貸倒損失として処理できる場合

まとめ(貸倒損失or貸倒引当金計上の順序)

 貸倒損失や貸倒引当金については、その取引先の状況や未入金期間等により、計上の可否が決まる仕組みです。取引先が倒産してしまった、、、という場合は、まずは、貸倒損失「1.金銭債権が切り捨てられた場合」に挙げられている決定がなされているか、そうでなければ、貸倒損失「3.一定期間取引停止後弁済がない場合」の要件を満たす場合には、備忘価額1円を残して貸倒損失計上、それも満たさない場合は、貸倒引当金(個別)の要件に該当するか確認、それにも該当しない場合は、貸倒引当金(一括)の計算に含める、という順序で処理を行うことが多いです。こういった順序で処理を行う理由は、実態に合った範囲内で出来るだけ税金計算上の費用を多く計上するため、また、貸倒損失「2. 金銭債権の全額が回収不能となった場合 」は厳密な資料収集が必要で、かつ、慎重な判断をされることが多いためです。
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